東京地方裁判所 昭和26年(ワ)21号 判決
原告 丸三ジヤム製造株式会社
被告 株式会社小出丸三ジヤム製造所 外一名
一、主 文
一、被告会社はその製造する商品ジヤムを表示するため、「まるさんのジヤム」の文字を使用してはならない。
二、被告会社は原告に対しその商号「株式会社小出丸三ジヤム製造所」中「丸三ジヤム」の文字の抹消登記手続をなし、且つ前記商号を営業に関して使用してはならない。
三、被告会社は左記広告を表題と原告及び被告の各社名を四号活字とし、其他を六号活字として本件判決確定後三日間東京都において発行する日本食糧新聞並びに日本パン菓新聞に掲載しなければならない。
謝罪広告
弊社は昭和二十五年八月以来ジヤム製造販売業を営んでいますが、弊社取締役及び販売員の名刺に貴社と同一若しくは類似の商号を表示したものを使用させ、或は弊社の看板に「まるさんのジヤム」と表示する等、貴社の商号並びに商品と混同誤認を生ぜしめる行為をなし、引いて貴社の信用を害したことは実に遺憾でありますので茲に謝罪の意を表すと共に今後一切このようなことをしないことを誓ひます。
株式会社小出丸三ジヤム製造所
代表者取締役 小出諭
丸三ジヤム製造株式会社
御中
四、被告会社は原告に対し金百二十万六千円、
被告小出諭は原告に対し金二百二万七千四百円を
それぞれ昭和二十六年一月三十一日から右完済するまで年五分の割合による金員を附加して支払うこと。
五、原告のその余の請求は棄却する。
六、訴訟費用は之を五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告等の負担とする。
七、本判決中金員支払の部分にかぎり原告において被告小出に対し金七十万円、被告会社に対し金三十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告会社に対し主文第三、四項同旨並びに「被告会社は自己を表示するため「丸三ジヤム製造株式会社」「ジヤム製造株式会社」「株式会社丸三ジヤム製造所」「株式会社ジヤム製造所」「丸三ジヤム製造所」「ジヤム製造所」の文字及び記号を使用してはならない。」、「被告会社はその製造する商品ジヤムを表示するため「丸三ジヤム」「丸三のジヤム」「ジヤム」「のジヤム」「まるさんジヤム」「まるさんのジヤム」「マルサンジヤム」「マルサンノジヤム」の文字及び記号を使用してはならない。」「被告会社は商品ジヤムに対する商標として「小」の字と「出」の字を点及び線を用い、図案化したものの間に此等の点及び線と異りたる著色を以てを表示したものを使用してはならない」旨及び「被告会社は原告に対し金百三十五万四千五百円及びこれに対する昭和二十六年一月三十一日から右完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求める」旨、被告小出に対し金三百一万三千五百円及びこれに対する昭和二十六年一月三十一日から右完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求める」旨、被告等に対し訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決並びに右金員支払の部分については担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
一、原告は昭和十七年十二月創立されたジヤム製造販売を営む株式会社で、その払込資本金は金一百万円であるが、借入金等を加え金六百八十万円を以て東京都下、長野県下、茨城県下、青森県下に工場及び研究設備を有し、特にGHQ経済科学局のバーニー技師の指導により栄養価に注意を払い、砂糖の統制時代には農林省の資材割当工場として優良なジヤムを製造し来つた。
二、原告は昭和十七年十二月株式会社となつたが、ジヤム製造販売の営業はこれより前、大正三年頃原告代表者大橋正の先代訴外大橋艶之助が訴外小出保一郎、同久保誠一と共に組合組織を以て東京市浅草区清島町二十八番地においてジヤム製造販売の事業を開始し、以来丸三ジヤム製造所という商号で営業してきたものを、株式会社組織として承継したものであつて、原告の丸三ジヤム製造株式会社という商号も右丸三ジヤム製造所の商号を承継したものである。
三、右のとおり原告会社の前身である組合は大正年間から丸三ジヤム製造所という商号を用い、またその商品の容器や包装にはの記号を付して優良なジヤムを多量に製造し、これを国内に販売拡布してきたので、丸三ジヤム製造所又はジヤム製造所の表示は同業者間にも一般需要者間にも周知されるに至り、ついで原告会社に改組されて後は丸三ジヤム製造株式会社という商号が業者間にも一般需要者間にも周知されるに至つた。のみならず従前使用された丸三ジヤム製造所又はジヤム製造所の表示も原告を指すものとして用いられ、又「丸三ジヤム」「丸三のジヤム」という商品の表示は原告の製造した商品を指すものとして著名となつた。従つて右商号商標並びに商品の表示は不正競争防止法施行地域内において広く認識されるに至り、又ジヤムという表示は周知の商標として認められるに至つた。原告は昭和二十五年十一月九日「ジヤム製造所」「丸三ジヤム製造株式会社」の表示を商標として登録した。
四、然るに、
(一) 被告小出諭は昭和二十五年一月二十日肩書住所においてジヤム製造所を開設したが、その名称に原告の商号であつた丸三ジヤム製造所と同音であり、且つ原告の営業を表示するジヤム製造所と同一の「ジヤム製造所」という名称を付してジヤム製造販売を開始し、
(二) ついで右製造所は同年八月十八日被告株式会社に改組されたが、右被告会社は原告の商号、原告の商品、原告の営業たることを示す表示の「丸三ジヤム」という表示を包含する「株式会社小出丸三ジヤム製造所」という商号を選定して使用している。
(三) 而して被告等は、
(イ) その取締役、社員の名刺に「ジヤム製造所」「ジヤム製造株式会社」という原告会社の表示と同一又は類似の表示を印刷して使用せしめ、
(ロ) その使用の自転車に「ジヤム製造所」と白ペンキで表示し、
(ハ) その店舗の屋上看板に「小出」の文字を図案化した赤色直線組合せの中央に紺色にてと表示し、右看板の側面には紺色にて「まるさん」赤色にて「ジヤム」と表示し、
(ニ) その製造のジヤムには「小出」の文字を図案化した緑直線の中央に赤色にてと表示したレーベルを用いジヤムの製造及び販売の営業をなしている。
(四) 而して原告の製品は前述のとおり国内において著名であり、その品質は特色があつて、甘味料等においても栄養に注意しているのにも拘らず、被告の製品は極めて粗悪である。元来輸出用苺ジヤムとしては壜、罐詰協会の協定(食品局承認)として原料生果に対して八十五乃至九十五%の砂糖を加え、製品糖度を九十五度以上とし、内地向A規格ジヤムでは原料生果の五十乃至五十五%の砂糖を添加し糖度を五十七度以上とすることになつているが、被告は食品局の割当工場でない結果、砂糖を入手することができず、栄養価のない代用甘味を主として使用しているので、その製品は右協定規格の要求にさえも合していない粗悪品である。
(五) 被告等がその製品を前記の如き方法で販売した行為は被告等のジヤム製造所を故意に恰も原告会社の如く装い、被告等の製品を恰も原告会社の製品の如く装つてその営業上の利益を得んがためになしたことはいうまでもない。
五、被告等の右行為の結果原告は、その営業上の信用並びに利益を害されるに至つた。すなわち、
(一) 取引業者及び一般需要者の一部には被告会社の取締役又は従業員を原告会社のそれと誤り、または被告等の商品を原告会社の商品と誤解し、被告会社を原告会社と誤認するものが生ずるに至り、被告等製造の粗悪品が原告会社の製品として流布されたため、原告会社はその信用を害され、また害される虞が多大となつた。
(二) 右の結果、被告等製造の商品が原告製造の商品と誤認して取引されるに至つたので、若し被告等の前記行為がなかつたなら原告はその商品を販売して得べかりし利益を害された。すなわち、その利益はジヤム一罐(二二、五キロ入)につき金百五十円であるところ、被告小出は昭和二十五年一月二十日から同年八月十七日まで、被告会社は同年八月十八日から同年十二月二十七日までの間に毎月約二千百罐合計二万九千百二十罐を販売したから、原告は前記割合による得べかりし利益合計金四百三十六万八千円の損害を蒙つた。
六、よつて原告は被告会社に対し、
(一) 被告等がその商号中に「丸三ジヤム」という表示を選定使用していることは不正競争防止法第一条第二号にいわゆる「本法施行地域内において広く認識される他人の商号、その他他人の営業上の施設又は活動と混同を生ぜしめる行為」に該当するから同条及び商法第二十条にもとずいて被告会社の商号中から「丸三ジヤム」の文字の削除または被告会社の商号の使用差止を、
(二) 被告等の第四項(三)(イ)乃至(ニ)記載の行為は右不正競争防止法第一条第二号及び同法同条第一号にいわゆる「本法施行地域内において広く認識される商号、商標、商品の容器包装其の他他人の商品たることを示す表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はこれを使用したる商品を販売拡布して他人の商品と混同を生ぜしめる行為」に該当し、また原告は商標については商標法第七条にもとずきこれを専用する権利を有するから、右各法条にもとずき主文第一、二項同旨及び「被告会社は商品ジヤムに対する商標として「小」の字と「出」の字を点及び線を用い図案化したものの間に此等の点及び線と異りたる著色を以てを表示したものを使用してはならないことを、
(三) 原告は被告等の第四項記載の行為により第五項記載のとおり、その営業上の信用を害されたから、不正競争防止法第一条ノ二第二項にもとずきその信用を回復するに必要な処置として主文第四項同旨の謝罪広告を同項記載の新聞に三日間掲載することを、
請求する。
次に被告小出諭及び被告会社に対し、
(一) 原告は被告等の第四項記載の行為により第五項記載のとおりその営業上の利益を害されたから、不正競争防止法第一条ノ二第一項にもとずき損害賠償として、被告小出に対し金三百一万三千五百円(二万九十罐)被告会社に対し金百三十五万四千五百円(九千三十罐)及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和二十六年一月三十一日から、右完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を請求する。
七、被告等の主張に対し、
(一) 大正三年大橋艶之助等三名が組合組織でジヤム製造の共同事業を開始後、大橋艶之助が夭逝したこと、大橋正が応召し、終戦後復員して原告会社の事業に従事したこと、被告小出諭がジヤム製造開始当初信濃屋ジヤム商会と称していたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(二) 被告等主張の「財産分けの契約」とは昭和二十四年一月十八日の誓約を指すもので、これは訴外小出保一郎、同久保誠一、原告代表者大橋正の共同事業による資産を右三名に分配することを内容とし、これによつて訴外小出保一郎は信州上山田温泉円山荘(建物は小出名義、温泉の権利は大橋名義であつたもの)を取得し、原告代表者大橋正は丸三ジヤム製造株式会社の株式の譲渡を受けたのである。而してその際小出一家は一切ジヤムの事業から手を引くと申出たのであつて、小出保一郎がその際個人として丸三ジヤム製造所の商号または会社の商標を使用する権利を留保したという事実は絶対にない。のみならず右の商号及び商標は法人である丸三ジヤム製造株式会社に帰属するもので、何等小出保一郎個人に関係のない権利である。
被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め次のとおり答弁した。
一、原告主張事実中、原告が払込資本金一百万円の株式会社で原告主張のとおりの工場を有していること、原告主張のとおり訴外大橋艶之助等三名が大正三年以来丸三ジヤム製造所を経営してきたこと、右製造所は昭和十七年十二月原告株式会社となつたこと、原告がジヤム製造所、丸三ジヤム製造株式会社の表示を商標として登録したこと、被告小出諭が昭和二十五年一月二十日ジヤム製造所を開設し、右製造所は昭和二十五年八月十八日被告株式会社となつたこと、原告主張の第四項(三)の(ハ)(ニ)の事実はいずれも認める。原告が借入金等を加え金六百八十万円を以て工場その他の設備を有していること、壜罐詰協会のジヤム規格協定に関する原告の主張は不知、その他の事実は否認する。
二、被告等が丸三ジヤム、ジヤムの表示を使用するのは次の理由による。
(一) 元来或は丸三という表示は大正三年同郷の竹馬の友である訴外大橋艶之助、同小出保一郎、同久保誠一の三名が郷里長野県の特産物である杏に着目して罐詰事業を企図し、組合組織を以て右事業を始め、大正五年頃東京市浅草区北清島町三十六番地に出張所を設置するに当り、右三名が永遠に「円くおさまる」ということの表示として右出張所を丸三出張所と称することにしたのが、その起源である。その後間もなく杏を材料とするジヤム製造を開始し、右出張所を丸三ジヤム出張所と称し、訴外小出保一郎がその組合の代表者となつて営業してきた。ところが大正九年訴外大橋艶之助はスペイン風邪に罹り、後事一切を右小出保一郎、久保誠一に托して夭死した。当時艶之助の遺子原告代表者大橋正は僅か十歳であつたので、右小出と久保は以来大橋の遺家族の生活費及び正等子女の教育費を支給してきたのである。大橋正が成年に達したとき、右小出、久保は同人をジヤム製造の事業に参劃させて故艶之助と同様に遇するに至つたのである。昭和十七年十二月右組合を株式会社に改組し、丸三ジヤム製造株式会社となしたが、戦時中本社は罹災する等経済的苦境に陥つたところ、小出保一郎は昭和二十年十二月再建を企図して自分の経営の仙台の亜炭坑を換金して丸三ジヤム製造株式会社に投資し、昔の隆盛を取戻すべく努力し来つたのである。このように小出保一郎はその一生をジヤム製造に捧げ、研究工夫をこらしてジヤム製造機械類の改良発明をなし、また業界における組合の理事長として活躍したので、業界では「小出の丸三か」「丸三の小出か」「ジヤムの小出か」「小出のジヤムか」といわれ、恰も「小出」と「ジヤム」と「丸三」とが同義語の如く喧伝された程であつた。
この間原告代表者大橋正は応召し、終戦後帰還し、小出保一郎社長の下で被告小出諭等と共にジヤム製造に当つていたが、兎角年少気鋭の大橋正と小出社長とは意思の疏通を欠くに至り、小出社長は隠退して大橋正と小出諭をして右営業を行わせることになつた。その際後日財産上の紛糾をさける上から財産分の契約をなし、小出保一郎は丸三ジヤム製造株式会社の株式を大橋正に譲り、ジヤム製造販売の実権を同人に渡した。しかしその際小出保一郎が大橋正に譲渡したのはジヤム製造設備であつて、小出保一郎が丸三ジヤムの標章の使用を抛棄した事実は一切ないから、大橋正にこの標章の独占使用を認めたことにはならないのである。
其後被告小出諭は原告代表者大橋正の冷遇に会い、原告会社を辞したので、昭和二十四年九月肩書住所でジヤム製造を開始した。その際被告小出は右営業につき最初これを信濃屋ジヤム商会と称していたが、昭和二十五年一月に至り父小出保一郎のジヤム製造の功績を思い、丸三の称呼を組入れた商号商標を用いることを考え、しかも原告との競業をさけるため特にこの点に意を用いて、当時原告で使用していなかつたジヤム製造所という商号を用い、また商品にはの記号を用いて原告の製品と区別したのである。当時原告会社はその看板にも丸三ジヤム製造株式会社と記しの記号は全然使用していなかつたのである。従つて被告小出は昭和二十五年八月十八日被告会社設立に当つても原告会社との混同をさけるために株式会社小出丸三ジヤム製造所という商号を選んだのである。
三、従つて原告の請求は次のとおりその理由がない。
(一) 原告の商号商標等は取引上広く認識されていない。
(1) 原告の商号丸三ジヤム製造株式会社、ジヤム製造所等は一部の業者間にのみ認識されているものであつて、特にの表示は前述のとおり原告は使用していなかつたから広く認識されていたものではない。
(2) 原告の商標、丸三ジヤム製造株式会社ジヤム製造所は本訴提起の二、三ケ月前に登録したものであり、またの標章を使用したレーベルは昭和二十五年十一月頃から使用されたものであるから広く認識されていない。
(3) 元来という記号は普通一般に用いられるもので、特に標章とか、商標というものではない。従つて何人にも独占使用を認めることのできないものである。
原告は従来商品ジヤムには専ら印を使用してきたのでを使用したことはなく、僅かに丸三の代りにを使用したことがあつたに過ぎないから、は広く認識されていない。
(二) 被告小出及び被告会社使用の商号、商標は原告会社のそれと類似性がない。
(1) 被告小出が使用した「ジヤム製造所」という商号と原告の「丸三ジヤム製造株式会社」という商号とは明かに表示が異る。殊に前述のとおり原告は当時の表示は使用していなかつたから、両者を混同する虞はなかつた。
(2) 被告会社の商号「株式会社小出丸三ジヤム製造所」も原告の商号とは明白に表示を異にし、常識のある一般人の判断において混同誤認を招く虞はない。
(三) 被告の商標は原告のものと類似性がない。
(1) 被告会社使用の商標は被告小出の姓「小出」の文字を図案化し「小」と「出」との間にの記号を挿入したもので、「小出」ととがいずれも分離した立場でなく、混然一体となつてまとまつた構成をなしている。
(2) 右の商標の図案化された「小出」の文字は一見して小出と認識される程度のもので、特に難解又は複雑なために小出と判読されないようなものではない。何人も一見して小出の文字を図案化したものであることが判然する程度のものである。しかも右図案化された小出の文字は商標の構成の大部分をなしているところから見ても決して中心線に続けて位置を占めるの単なる附飾的存在でないことは勿論、附記的附随的の存在でもなく実に構成の主要部分をなしている。
このことはたとえのみが異色で表示されていても同様であつて、そのために直ちに小出の文字がの飾り乃至附随的のものとはならない。
(3) 右の構成上から一般の称呼として「小出丸三」の呼称こそ生ずるであろうが、の呼称だけが直ちに出ることは決してない。
従つて原告の商標と被告会社の商標とは構成外観呼称観念においてその差異は明白である。
(4) 被告の商標は原告の商標とは類似性のないものとして出願公告されている。しかもその審査の時期は原告のものの審査の時期と余り経過しない時期になされており、特許庁の審査の担当官も同一であつたから、若し類似性があれば当然却下さるべきであつた。
以上のとおり原告会社の商号、商標等は被告等のものと類似性がないから決して混同誤認を生ずる虞はない。
(四) 被告等は原告会社及びその商品と混同誤認を生ぜしめるような行為をなしたことはない。
(1) 被告小出が「ジヤム製造所」という商号を使用した際、その取引先に被告小出に対する通信用葉書としてその表にジヤム製造所というゴム印を押捺して配布したことはあるが、それは昭和二十五年一月中旬頃僅かに三十枚位配布したに過ぎず、その後は使用していなかつたから混同を生ずる虞はない。
(2) 被告会社が設立された際、被告会社はその得意先に被告会社は原告とは別個の存在であることを通知し、またその旨を表示して得意先を開拓した。
(3) 被告会社の取締役及び社員の名刺に原告会社の商号と同一若しくは類似の表示を印刷させたという事実も存しない。被告会社の社員渡辺良春が「ジヤム製造所」と肩書した名刺を使用したこと、また訴外久保秀治が「ジヤム製造株式会社」と肩書した名刺を使用したことはいずれも被告会社の関知しないところである。右久保は被告会社の従業員でもなかつたが、たまたま得意先から右の名刺を使用していることを注意されたので被告会社は同人にその使用を停止させた。
(4) 被告小出が創業当時一時ジヤム製造所と白ペンキで表示した自転車を使用したことはあるが、これも前述の理由で混同誤認を来す虞はなかつた。
(5) 被告会社は罐詰壜詰等一般大衆に直接販売せられる製品を製造販売していない。主として製パン業者、パン和洋菓子製造販売業者、食堂学校等大口需要家を顧客として、いわゆる計り売り、或は製菓製パン原料として各種容器にジヤムを入れて販売している。従つて被告の得意先は限定されているから決して原被告混同の虞はない。
(五) 右のとおり被告等は何等不正競争の目的を有せず、原告会社の商号商標等と混同誤認を生ぜしめたことはないから、原告の請求はいずれもその理由がないが、仮りにそうでないとしても、被告等は原告の営業上の信用並びに利益を害していない。
(1) 原告の営業上の信用を害した事実はない。
(イ) 被告等の製品は原告主張のような粗悪品ではない。
被告等は斯業の権威である訴外小出保一郎の指導の下に多年の経験を有する技術者によつてジヤムを製造しつつある。
先ず原料を安く仕入れ、原料果実の操作に当つては熱度の操作を十分研究しベブチンを殺さずビイタミンBを保有させ、腐敗による中毒を起さぬよう栄養、風味衛生に万全の注意を払つている。被告会社は食品局の割当工場となつてはおらぬが、一般業者と同様に代用甘味としては水飴を使用し、砂糖、水飴、糖密、サツカリンの用法宜しきを得て糖度六十八%で規格に十分達し、色素も検定済のものを使用し消費者から好評を博している。
(ロ) 被告等の製品の販路は業者に限定されているから、原告の信用を害することはない。
被告会社の製品はすべて、いわゆるバラ売りとして斯業の玄人である菓子パン等の業者に販売されており、簡単に試食しうることと相まつて品質上の良否の鑑別が容易であるから原被告の製品の混同のため原告の信用を害するようなことは生じない。
(2) 右(1) の理由及び次の理由で原告の営業上の利益を害することはない。
(イ) 被告が不当な薄利で販売し原告に対して不正競争をしている事実はない。
被告等は創業以来訴外小出保一郎の意を継いで「儲けるな、損するな」の主義によつて廉価生産能率増進のため協力一致の努力を続けているから、当然廉価に販売できるのであつて決して不当な競争をしているのではない。
(ロ) 被告等の昭和二十四年十一月から同二十五年十二月までの売上高は、左記記載のとおりで原告主張の如き数量ではない。
小出諭個人時代売上表
年 月
容器
罐数
替
金額
廿四 十一
五ガロン罐
一五
六、〇〇〇
九〇、〇〇〇、〇〇円
〃 十二
〃
一三
〃
七八、〇〇〇、〇〇円
廿五 一
〃
五〇
三、五〇〇
一七五、〇〇〇、〇〇円
〃 二
〃
五〇
〃
一七五、〇〇〇、〇〇円
〃 三
〃
七〇
〃
二四五、〇〇〇、〇〇円
〃 四
〃
一〇〇
二、七五〇
二七五、〇〇〇、〇〇円
〃 五
〃
一〇〇
〃
二七五、〇〇〇、〇〇円
〃 六
〃
一二〇
〃
三三〇、五〇〇、〇〇円
〃 七
〃
一五〇
〃
四一二、五〇〇、〇〇円
〃 八
〃
七〇
〃
二四五、〇〇〇、〇〇円
合計
七三八
二、三〇一、〇〇〇、〇〇円
株式会社小出丸三ジヤム製造所売上表
年 月
容器
罐数
替
金額
廿五 八
五ガロン罐
二八〇
二、七五〇
七六六、一一〇、〇〇円
〃 九
〃
四二〇
〃
一、一五八、〇〇〇、〇〇円
〃 十
〃
三八〇
〃
一、〇三〇、四〇〇、〇〇円
〃 十一
〃
六五〇
二、〇〇〇
一、二九二、〇〇〇、〇〇円
〃 十二
〃
六六〇
〃
一、三二三、〇〇〇、〇〇円
合計
二、三九〇
五、五六九、五一〇、〇〇円
<立証省略>
三、理 由
原告が払込資本金一百万円の株式会社で東京都下、長野県下、茨城県下、青森県下に工場及び研究設備を有してジヤム製造販売の事業をしていること、原告は大正三年頃原告代表者大橋正の先代訴外大橋艶之助が、訴外小出保一郎同久保誠一と共に組合組織を以て東京市浅草区清島町二十八番地においてジヤム製造販売の事業を開始したものを株式組織として承継したものであり、また原告の「丸三ジヤム製造株式会社」という名称は右組合の名称であつた「丸三ジヤム製造所」を承継したものであること、原告が「丸三ジヤム製造株式会社」「ジヤム製造所」の表示を商標として登録したこと、被告小出諭が昭和二十五年一月二十日肩書住所においてジヤム製造販売の営業を開始し、その商号を「ジヤム製造所」としたこと、右製造所が昭和二十五年八月十八日に株式会社となり「株式会社小出丸三ジヤム製造所」という商号となつたことは当事者間に争がない。
第一原告の商号、商標である「丸三ジヤム製造株式会社」、商標である「ジヤム製造所」、商品を表示するの表示が不正競争防止法施行地域内において広く認識されているかについて判断する。成立に争ない甲第十五号証、同第十六乃至第十八号証に証人山口慶蔵の証言によつて成立の認められる甲第三号証の一、二、同第二十八号証の一、二、及び証人山口慶蔵、同星三好、同石川太市、同花里清三、同平野二朗、同一条正の各証言を綜合すれば、原告代表者大橋正の先代訴外大橋艶之助は被告小出諭の父訴外小出保一郎、同久保誠一と共に大正年間から「丸三ジヤム製造所」という商号で組合組織を以てジヤム製造販売業を営んできたが、右事業が次第に隆盛になるに及び、右丸三ジヤム製造所という商号はジヤム製造販売業者間並びに需要者間に広く認識されるに至り、ついで昭和十七年十二月右組合が原告株式会社に改められてからも、従前の「丸三ジヤム製造所」という名称もまた原告を指すものとして原告商号と共に広く認識されてきたこと、原告の前身の丸三ジヤム製造所はその商品のマークとして印を用いたが、また同時にその商号の丸三を表したの表示をも用い、製品のレーベルに印並びに印を附し、得意先に年末年始用、中元用として配付する手拭、タオル、風呂敷等にもジヤム製造所と染めたものを使用し、食糧新聞紙上掲載の年賀文にもジヤム製造所と表示し来つたので、原告会社はこれを引きついで印並びに印を製品のレーベルその他に使用したからの表示は原告の営業上の活動並びに原告の商品を表示する代表的なものとして広く認識されてきたことが認められ、右認定に反する証人渡辺良春、上田安太郎、荒井孝吉、加藤福一、小林円次、金井洋一の各証言部分及び乙第一乃至第三十五号証の記載部分は措信出来ず、他に右認定を覆す証拠はなく、また証人小出保一郎は丸三ジヤムの声価は日本一であると証言しているから、原告の商号、商標、商品の表示たるは不正競争防止法施行地域内において広く認識されているものというべきである。
第二被告等の商号と原告の商号との類似性について判断する。
(一) 被告小出が使用したジヤム製造所という商号についてこれを見るのに、原告の前身である組合の商号は正式には「丸三ジヤム製造所」であるが、この「丸三」を表示するのになる記号を使用していたこと、原告が株式会社となつてから後も「丸三ジヤム製造所」又は「ジヤム製造所」という表示は原告を指すものとして用いられていたことは前認定のとおりである。而して「丸三」ととは印刷上の表示として異るけれども、発音としては同一である。従つて原告の商号たる丸三ジヤム製造株式会社と被告小出の使用したジヤム製造所という各商号は取引上いずれもその一部分殊に主要部分である「丸三ジヤム」「ジヤム」という部分のみが呼称せられる結果、その主要部分が同一又は甚しく類似しているため、世人をして右両商号の混同誤認を生ぜさせるおそれが多分にあるものと謂うべく、かかる場合両商号は類似しているものと言つて妨げないものと謂うことが出来る。そうすると被告小出の用いた「ジヤム製造所」という商号は原告の商号と同一又は類似の商号であるというべきである。
(二) 次に被告会社「株式会社小出丸三ジヤム製造所」という商号についてこれを見るのに、被告会社は原告丸三ジヤム製造株式会社との混同をさけるために特に小出の名を冠したと主張するが、丸三ジヤム製造所という名称が原告を表示するものとして広く認識されていたことは前記認定のとおりであるから、右「株式会社小出丸三ジヤム製造所」という商号中「丸三ジヤム製造所」という表示が「小出」の表示よりもより強く認識されることは首肯しうるところである。そして右二個の商号中主要部分が同一又は類似しているため世人に商号の混同誤認を生ぜさせるおそれのあることは前に認定した通りである。また証人小出保一郎の証言によれば、同証人は原告代表者大橋正の先代大橋艶之助等と共に丸三ジヤム製造所を開始し、その中心人物となつて創業以来尽力し、右製造所が株式会社となつた際は同証人が社長となり丸三ジヤムの声価を高からしめたこと、その後同証人は原告会社を退いたことが認められるから、原告会社と訴外小出保一郎との関係は非常に密接であつて、たとえ小出保一郎が現在原告会社から退いたとしても、被告会社の商号に小出の名を冠したことは原告との混同をさけるというよりもむしろ却つて原告と混同しやすい結果を生ぜさせるおそれが多分にあるものと謂わざるを得ない。従つて被告会社の商号は原告の商号と類似しているものというべきである。
第三原告の商品の表示であると被告の商標との類似性について判断する。被告が「小出」の文字を図案化した直線の中央に異つた着色でを表示した商標()を使用していることは当事者間に争いない。
原告は被告の商標において「小出」の文字の図案化されたものと異なる着色でを表示しているから、原告の商標と同一若くは類似の商標であると主張するに対し被告はこの商標は「小出」ととが一体をなしてまとまつた構成をなしているから、たとえが異色で表わされても類似性がないと主張する。先ず着色の点は措き、この商標が原告の商品の表示と類似性を有するかにつき考えると商標が類似しているか否かはその構成されている部分ばかりでなく、その商標を全体として観察し、その結果二個の商標が外観、称呼、観念等につき同一又は類似していて世人をして混同誤認を来すの虞があるかどうかを考えなければならない。してみると被告の商標中の表示は原告の商品の表示に異らないけれども、このは「小出」の文字の図案化されたものによつて囲まれて両者一体をなして一つのマークを構成していて原告の商標と外観を異にすることが認められ、特にこのの表示のみが他の部分と分離して特別に認識されるものとは認められない。然らばこの「小出」ととが異色で表示された場合はどうであろうか。被告はたとえこれが異色で表示されたとしても何等同色の場合と異らないというが、被告の商標中にはその中央にの表示がされていることは前述のとおりであるから、このの部分が異色を以て表示された場合には本件においては成立に争のない甲第十号証によると小出の図案化は緑色であり、は赤色で顕わされているから同色を以て表示された場合に比して外少強く認識されることは一応認められる。しかしながら、被告の商標は前認定のとおり「小出」の文字ととが一体をなして一つのマークを形成しているのであるから、たとえこの両者が異色で表示されたとしても、そのうちののみが単に別個の存在として認識され、又は特ににのみ強く着眼され、原告の商標と被告会社の商標とが外観において同一又は類似のものと認識あるとは到底認めることが出来ない。が異色を以て表わされた場合には同色の場合に比して多少強く認識されるからといつて異色の場合のみを同色の場合と区別し、同一又は類似の商標と謂うことはできない。
第四被告等が原告の商号、商標、商品の表示と同一又は類似のものを使用して、原告の商品及び原告の営業上の活動と混同を生ぜしめたかについて判断する。被告小出が創業当時「ジヤム製造所」と白ペンキで表示した自転車を使用したこと、被告会社の屋上看板側面に「まるさんのジヤム」と表示したことは当事者間に争なく、被告小出諭が通信用葉書として「ジヤム製造所」とゴム印を押捺したものを得意先に三十枚位配布したことは被告も明かに自白するところである。被告会社は原告と別個の存在であることは得意先に注意したから原告との混同を生ぜしめたことはないと主張する。証人田島貞雄、同渡辺良春の証言によつて成立の認められる甲第八号証の一乃至三証人石川太市の証言によつて成立の認められる甲第十三号証の一、二、証人花里清三の証言によつて成立の認められる甲十二号証の一、二に証人山口慶蔵、同星三好、同石川太市、同花里清三、同田島貞雄、同渡辺良春の各証言を綜合すれば、訴外渡辺良春はかつて原告会社に勤務し、その後被告等を後援し、現在被告会社の取締役であるが、昭和二十五年一月から同年三月頃当時被告小出の商号であつた「ジヤム製造所」の肩書を付した名刺を使用して得意先を廻つたので、得意先では「丸三ジヤム」と呼ばれて原告会社と混同誤認したこと、訴外久保秀治は被告等の製品の販売に当つている者であるが、同人は昭和二十四年十一月末頃「ジヤム製造株式会社」という肩書の名刺を使用して得意先を廻り、その他の被告等の製品の販売に当つた者も、その取引先において単に「丸三」或は「丸三ジヤム」と称して注文をとつたので、取引先では屡々原告と誤認したことが一、二に止まらなかつたこと、例えば浦和市の一業者は浅草の丸三と思つて注文したら板橋の被告小出の製品であつたので驚いたとか、或は埼玉県蕨町の柿沼というパン屋では原告と誤認して注文をしたが、板橋の被告小出であることを知つて断つたとか、或は浦和市の杉浦という店では原告からの御用聞きであると思つて注文したところ、被告会社であつたとかの間違が起り迷惑を蒙つたこと、そのため業界でも被告等が原告の表示に類似した「板橋の丸三」とか「小出丸三」とかの表示を用いていることに非常に関心をよせていることが認められ、証人渡辺良春の証言中訴外久保秀治が前記の名刺を使用していることは知らなかつたという点は措信しない。而して被告等が特に原告との混同をさけるために注意をしたという点の証拠は何等存しない。のみならず被告小出が最初「信濃屋ジヤム商会」と称していたのを間もなく「ジヤム製造所」と改めついで被告会社となつたことは当事者間に争がないから、右事実はかえつて被告等は原告と類似の商号を使用して混同を生ぜしめたといわなければならない。また被告主張の被告等の製品は限定された業者とのみ取引されるから混同されないという事実はこれを認めるに足る証拠がない。
従つて被告等は原告の商号等を使用して原告の商品及び営業上の活動と混同を生ぜしめたものである。
第五被告等が故意に前記行為をしたかどうか及び被告会社が不正競争の目的を以つて右商号を使用したか否やについて判断する。成立に争ない甲第二十三号証、同第二十四号証、同第二十七号証被告小出諭本人の供述を綜合すれば、昭和二十四年一月原告代表者大橋正は原告株式会社の株式の譲渡を受けてこれを経営することになり、訴外小出保一郎は原告会社の事業から手を引くことになつたことが認められ、被告主張のその際丸三又はの表示の独占使用を原告会社に認めた事実はないということは何等認めるべき証拠がない。而して被告小出諭本人の供述によれば、被告小出が昭和二十四年秋頃ジヤム製造販売の事業を開始した際、その商号を信濃屋ジヤム商会と称したが、右事業がその緒につくに及び昭和二十五年一月その商号をジヤム製造所と改め、ついで同年八月株式会社に改組して被告会社「株式会社小出丸三ジヤム製造所」としたことが認められ、証人石川太市の証言によれば、被告等はその取引先に対し「私の方が本家である」「小出の方が本店である」と称していることが認められる。右事実を前記認定の原告の商号等が広く認識されている事実に照してみれば、被告等は故意に前記行為をなし、且つ被告会社は不正競争の目的を以てその商号を使用したものと謂うべきである。
第六被告等の前記第四、第五の行為により原告は営業上の信用並びに利益を害されたかについて判断する。
(一) 原被告の製品について見るのに、成立に争ない甲第二十号証、証人沢田正順、同石川太市、同斎藤進の各証言を綜合すれば、原告工場は農林省による工場検査の結果、浅草工場は昭和二十三年四月、屋代工場は昭和二十五年五月、錦糸町工場は昭和二十五年九月、静岡工場は昭和二十六年からいずれも右検査に合格して指定工場として砂糖の配給を受け、昭和二十五年中に受けた砂糖の配給額は東京都において最高額であつたこと、原告工場は研究室を有し砂糖の節約並びにヴイタミンCを破壊しないこと等について研究を重ねていること、その結果原告工場研究室において調査したところによれば、原告製造のジヤムは製法、甘味、栄養価、色、艶において優秀であるが、これに反し、被告等は農林省の指定工場となつていないために砂糖の配給がなく、代用甘味を使用しているからその製品は甘味、栄養価、色、艶等において原告製品より劣つていることが認められる。
(二) 原告が営業上の信用を害されたかについて判断すると、被告等が原告会社と混同誤認されたこと、並びに被告等の製品が原告の製品に劣ること、前記認定のとおりであるところ、花里清三の証言によつて成立の認められる甲第十二号証の一、二、石川太市の証言によつて成立の認められる甲第十三号証の一、二、証人花里清三、同石川太市、同星三好の各証言を綜合すれば、ジヤム製造販売業を営むサクラ食品工業有限会社代表者訴外花里清三は昭和二十五年三月頃取引先で丸三ジヤムが一罐で二百五十円も安く手に入るということを聞いたので原告に注意したところ、後にそれは被告小出の製品であつたことが判り原告に陳謝したこと、被告等は取引先に対して単に「丸三ですが」と申入れて注文をとつたので取引先では製品が届いてから原告の製品でないので憤慨したこと、その他アルプス食品工業株式会社等のパン屋が原告と被告会社とが間違いやすく、且つ被告等の製品が原告の製品より悪いので困却していることが認められ、また被告等が取引先に対して「私の方が本家である」「小出の方が本店である」といつて販売している事実は前記認定のとおりであるから、原告は明かに被告等の行為によつてその営業上の信用を害されたということができる。
(三) 原告は営業上の利益を害されたかについて判断する。
被告小出が「ジヤム製造所」という商号でジヤム製造所を開設したのが昭和二十五年一月二十日であること、被告小出が右製造所を被告会社に改組したのが、昭和二十五年八月十八日であることは当事者間に争ない。原告は右期間中に被告小出は二万九十罐、被告会社は九千三十罐、合計二万九千百二十罐を販売したと主張し、被告等は被告小出において六百九十三罐、(小出個人売上高から昭和二十四年十一、十二月分同二十五年一月十九日迄の分を除く)被告会社において二千三百九十罐を販売したにすぎないと主張するが、原告主張の販売数量はこれを全部認めるに足る証拠がなく、被告主張に対しては証人渡辺良春の証言中、被告小出個人時代における販売高が一月百罐乃至百二十罐であつたという点はややこれにそうけれども、被告会社となつてからの販売高は一日三十罐乃至五十罐(一月九百罐乃至千五百罐)であるという点は右主張にそわないから、結局右証言は被告主張を認めるに足らない。而して成立に争ない甲第二十二号証は被告会社が日本ジヤム工業会に提出した生産実績の届出であつて、これによれば、被告等の昭和二十五年中の生産実績は昭和二十五年一月から三月までは合計六百二十七罐、同年四月から六月までは合計二千五百二十一罐、同年七月から九月までは合計九千六百十罐、同年十月から十二月までは合計一万百八十罐であることが認められるところ、証人渡辺良春は右生産高は砂糖の割当を多く得たいために実際の生産高の五倍を計上して報告したものであると証言しているが、右証言は同証人の前記証言による販売高に比してその数額に著しい相違が認められるので措信し難い。結局被告の販売高は甲第二十二号証記載の生産実績に従つて認定するの他なく、これによつて算出すれば被告小出の昭和二十五年一月二十日から同年八月十七日までの販売高は八千四罐被告会社の同年八月十八日から同年十二月二十七日までの販売高は一万三千五百十六罐となる。而して証人久保秀治の証言によれば小出丸三のジヤムの利益は一罐につき金五十円以上であることが認められる。よつて被告等の利益額は原告の請求に従えば、一罐の利益金百五十円として前記販売高により算出すれば、被告小出は金百二十万六百円、被告会社は金二百二万七千四百円となることが認められる。
従つて原告は被告等の前記行為により右金額と同額の得べかりし利益を喪失し営業上の利益を害されたものと謂うべきである。
第七以上認定した事実によれば、被告等は原告の商号、商標、商品の表示と同一若しくは類似の表示を使用して原告の商品及び原告の営業上の施設又は活動と混同を生ぜしめ、これによつて原告の営業上の信用及び利益を害し、且つ故意に右行為によつて原告の営業につき損害を加えたものであることが認められ、又原告が丸三ジヤム製造株式会社なる商号を登記したことは当事者間に争がなく、被告等が不正競争の目的で右商号と類似の商号を使用したものと謂うべきである。
第八然し乍ら被告会社が自己を表示するため「丸三ジヤム製造株式会社」「ジヤム製造株式会社」「株式会社丸三ジヤム製造所」「株式会社ジヤム製造所」「丸三ジヤム製造所」「ジヤム製造所」の文字及び記号を使用したこと、及び被告会社がその製造する商品ジヤムを表示するため「丸三ジヤム」「丸三のジヤム」「ジヤム」「のジヤム」「まるさんジヤム」「マルサンジヤム」「マルサンノジヤム」の文字及び記号を使用したことについては原告の全立証によるも之を認めることが出来ない。唯ジヤム製造所及びジヤム製造株式会社という文字及び記号については被告小出が個人営業時代に名刺又は自転車の表示に之を用いたことは前に認定した通りであつて、原告は被告会社となつてからも「ジヤム製造株式会社」の表示を使用した旨主張し、甲第八号証の一の裏面の記載を援用しているけれども、右記載が真正であることを認める証拠がなく、却つて証人久保秀治の証言によると同人が甲第八号証の一の名刺を使用したのは被告小出の個人営業当時であつて被告会社となつてからは使用していないことが認められ、右認定を覆す証拠はないから、この点の原告の主張は採用出来ない。
而して不正競争防止法第一条により同条各号記載の行為の差止めを求めるには右行為が現実になされ、之によつて営業上の利益を害される虞ある場合に限るのであつて、右行為が未だなく唯かかる行為をなすおそれがあるに過ぎない場合は之が差止めを求めることが出来ないものと解すべきであるから、原告は被告会社に対し前記各文字及び記号の使用禁止を求めることが出来ないものと謂うべきである。
第九よつて原告の本訴請求は、
(一) 被告会社に対し不正競争防止法第一条にもとずき被告会社の商品ジヤムの表示として「まるさんのジヤム」の使用差止を求める部分、
(二) 被告会社に対し不正競争防止法第一条、商法第二十条にもとずき被告会社の商号中から「丸三ジヤム」の文字を削除し、その現在の商号を営業に関し使用することの差止を求める部分、
(三) 被告会社に対し不正競争防止法第一条の二第二項にもとずき営業上の信用を回復する処置として主文第四項同旨の広告文を本件判決確定後日本食糧新聞並びに日本パン菓新聞紙上に三日間掲載することを求める部分、
(四) 被告小出諭及び被告会社に対し不正競争防止法第一条の二第一項にもとずく損害賠償の請求については被告会社に対し金百二十万六千円、被告小出諭に対し金二百二万七千四百円の限度において、
(五) また被告等は右金員に対しては本件訴状送達の翌日であること本件記録上明かである昭和二十六年一月三十一日から右完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求める部分、
はいずれも正当であるから之を認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第九十二条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 花淵精一 岡部行男 石渡満子)